技術監修:JNA認定講師・施術年数15年・累計施術担当件数18,400件のサロン経営支援ディレクター
スタッフ紹介:施術年数12年、JNECネイリスト技能検定1級およびJNAジェルネイル技能検定上級保有、累計施術担当件数12,500件。自身も過去に自爪が薄く割れやすい悩みを抱えており、プライベートでは観葉植物の育成を趣味としています。UNELMAのブログ担当として、サロン経営の数値データに基づいた実践的な情報をお届けします。
スクール併設がサロン経営に与える影響と採用の現実
ネイルサロンの経営において、スタッフの採用難や早期離職は深刻な課題となっています。この課題を解決する手段として、サロン内にネイルスクールを併設するモデルを検討するオーナーが存在します。スクールを併設することにより、自店の技術基準や接客方針に合わせた教育を施したうえで、卒業生をそのまま自店のスタッフとして採用できるという利点が生じます。求人媒体に依存せずに人材の確保を図る入口として、スクール併設は魅力的な施策に見えます。
しかし、採用の入口としてのみスクールを導入した場合、経営上のリスクが発生します。スクールの運営には、講師となるスタッフの人件費、練習や講義で使用する専用スペースの確保、教材や備品の準備といったコストが経常的に発生します。これらの経費に対して、受講生からの受講料収入が不足している場合、スクール部門は単体で赤字となります。採用コストを削減できたとしても、スクール部門の赤字をサロン本業の利益から補填することになれば、サロン全体の最終利益を圧迫する結果となります。スクール併設を検討する際は、採用手段としての側面だけでなく、一つの事業としての採算性を厳密に評価する必要があります。
スクール単体で黒字化を図るための事業設計
スクールを併設するにあたって最も重要な原則は、スクール部門を単体で黒字化させる前提で事業設計を行うことです。採用目的の補助的な施設ではなく、収益を生み出す独立した事業として成り立たせなければなりません。
スクール単体の黒字化を達成するためには、以下の要素を明確に定義して設計する必要があります。
- カリキュラムごとの受講料と原価率の試算
- 講師を担当するスタッフの施術業務と指導業務の時間の明確な分離
- 授業で使用する面数および機材の稼働効率の算出
- 卒業後の進路選択にかかわらず事業利益が残る収益構造の構築
スクールの生徒が必ずしも自店に就職するとは限りません。他店への就職や自宅サロンを開業するケースも想定されます。生徒が自店へ入社しなかった場合でも、受講料収入のみで指導人件費や固定費を賄い、利益を確保できる価格設定と定員管理が不可欠です。アイサロンなどを併設している複合店舗においても、限られた店舗面積と人員リソースをどの事業に配分するかを数値に基づいて厳密に計算することが求められます。
既存サロンのデータ分析から見る稼働と失客の現実
スクール事業への投資や人員の割当を行う前に、既存のサロン事業がどの程度効率的に運用されているかを確認することが不可欠です。施術スペースの不足を理由にスクール併設や店舗拡大を検討するケースがありますが、実際のボトルネックは別の要因にある事例が存在します。
UNELMAの店舗稼働調査データによると、席が3つの店で席が全部ふさがっていたのは月5.0時間=施術のあった時間の1.6%だけで、本当の制約はスタッフの出勤時間だったという事実が判明しています。店舗の物理的な座席数ではなく、スタッフの出勤シフトや施術時間の配置が売り上げの限界を決めていたことになります。稼働状況を正しく把握せずにスクール用のスペースを確保すると、既存サロンの稼働可能時間をさらに減らしてしまう危険性があります。
また、採用によってスタッフを増員し、スクールから新人を供給できたとしても、失客対策がなされていなければ売上は安定しません。UNELMAの新規客追跡データによると、ある月の新規客のその後を追うと、2回目に来た割合は14〜36%で、67〜79%が失客していたという結果が示されています。来店した新規客の過半数が失客している状態では、いくらスクールから新規スタッフを採用して施術件数を増やしても、集客と施術の労力が無駄になってしまいます。
一方で、休眠顧客への適切なアプローチによって再来店を促す施策は効果を発揮します。UNELMAの配信効果測定データでは、離反客476名へ配信して2日で再来が4.6名増え売上15,666円増(配信していない他店を差し引いた実測値)という明確な数値結果が得られています。新規採用やスクール開設にリソースを投入する前に、既存顧客の維持や離反客の呼び戻しといった基盤の整備を行うことが経営の安定につながります。
スクール事業とサロン事業を相乗効果へ導く運用ルール
スクール事業を単体で黒字化しつつ、サロン事業へ好影響を与えるためには、両事業の運用ルールを明確に定める必要があります。
具体的な運用ルールとして、以下の項目を設定することが有効です。
- 講師を担当するネイリストのインセンティブ設計と評価基準の明確化
- 生徒がサロンの実際の施術業務を見学・サポートする際の安全基準の策定
- スクール生専用の練習時間とサロンの営業時間帯の切り分け
- 卒業生の採用基準および入社後の研修期間と給与体系の事前策定
サロンのトップネイリストが講師を兼任する場合、施術による売上機会の損失を考慮しなければなりません。講師としての稼働時間に対してもサロン施術と同等以上の収益性が確保できるよう受講料金を設定し、スタッフへの還元基準を提示することで、スタッフのモチベーションを維持できます。
スクール事業を独立した収益源として成立させ、そのうえで育成された人材がサロンの即戦力として定着する仕組みを構築することこそが、スクール併設を成功に導く鍵となります。サロンオーナーは感覚や採用の都合だけに頼らず、稼働率やリピート率、人件費率といった正確な数値データに基づき、事業計画を策定していくことが求められます。