損益分岐点を把握できていないリスクと計算の基本

ネイルサロンのオーナーとして日々現場の施術や店舗管理に追われていると、自店舗の損益分岐点を正確に計算する時間を取れていないかもしれません。しかし、経営において損益分岐点を把握していない状態は、暗闇の中でゴールが見えないまま走り続けているようなものです。

損益分岐点とは、サロンの売上高と発生した経費がちょうど同じになり、利益も損失も生じないゼロのラインを指します。売上がこのラインを越えれば利益が発生し、下回れば赤字となります。

この境界線を把握できていないと、毎月いくらの売上を確保できれば安心できるのか、あと何人のお客様にご来店いただければ赤字を回避できるのかという明確な判断基準を持てません。その結果、感覚的な経営に頼ることになり、どれだけ忙しく働いて施術をこなしていても、月末に帳簿を開くと手元にお金がほとんど残っていないという状況に直面しやすくなります。

損益分岐点の計算自体は決して難解なものではなく、ポイントさえ整理すれば短時間で導き出すことができます。計算に必要な要素は、サロンで毎月かかっている費用を正しいルールで整理することと、1客あたりの収益性を把握することだけです。まずは自店舗の経費の構造を正しく見直すことから始めましょう。

ネイルサロンにおける固定費と変動費の正しい分け方

損益分岐点を正確に算出するために、最初に行うべき作業が経費の分類です。サロンで発生するすべてのコストは、変動費と固定費のどちらかに分けることができます。この分け方を間違えてしまうと、いくら計算を行っても正しい損益分岐点が出てきません。

変動費とは、お客様のご来店数や施術の件数に応じて、売上に比例して増減する費用のことです。ネイルサロンにおける代表的な変動費には、以下のような項目があります。

一方、固定費とは、売上の金額や施術の件数に関わらず、サロンを維持するために毎月決まって発生する費用のことです。毎月の売上がゼロであっても支払わなければならないコストが固定費にあたります。代表的な項目は以下の通りです。

水道光熱費などは使用量によって毎月多少の変動がありますが、施術数に直接比例して大きく上下するものではないため、損益分岐点の計算においては固定費として扱うのが実務上適切です。このように経費を変動費と固定費に正しく分けることが、正確な数字を出すための基盤となります。

なぜ歩合給であっても人件費を固定費として扱うべきなのか

経費の分類を行う際、多くのオーナーが判断に迷うのが人件費の扱いです。特に、施術実績や指名数に応じて支給額が変わる歩合給を採用している場合、売上に連動して金額が変わるため、変動費として計算したくなるかもしれません。しかし、サロン経営の損益分岐点を算出する上では、歩合給を含めた人件費全体を固定費として扱うのが正しい考え方です。

なぜなら、スタッフの雇用を維持し、安定してサロンを営業していくためには、売上の増減に関わらず毎月支払うべき給与のベースが存在するからです。歩合給であっても、スタッフがサロンに出勤してシフトに入っている以上、その時間を確保するためのコストは固定的に発生しています。人件費を変動費として甘く見積もってしまうと、実態よりも損益分岐点が低く計算されてしまい、見せかけの赤字抜けに安心してしまう危険があります。

また、アイサロンやネイルサロンのような予約制の施術ビジネスにおいては、設備や席数以上にスタッフの出勤時間そのものが売上の上限を決定づける構造になっています。

実際の実例として、UNELMAでの実測データによると、席が3つの店で席が全部ふさがっていたのは月5.0時間、つまり施術のあった時間の1.6%だけであり、本当の制約は設備の席数ではなくスタッフの出勤時間であったことが分かっています。

つまり、稼働の上限を決定づけているスタッフの出勤枠を確保するための人件費は、サロンを存続させるための最も本質的な固定費なのです。人件費をすべて固定費として安全側に見積もることで、どのような状況でも店舗を維持できる現実的な損益分岐点を導き出すことができます。

1日あたり何人で赤字を抜けるか

固定費と変動費の整理ができたら、いよいよ自店舗が1日あたり何人のお客様を施術すれば赤字を脱出できるのかを計算します。算出の手順はシンプルです。

まず、1客あたりの限界利益を算出します。これは、平均客単価から、1人のお客様の施術にかかる変動費(材料費や決済手数料など)を差し引いた金額です。お客様が1人ご来店されるごとに、サロンにいくらの利益が残るかを示します。

次に、毎月発生する固定費の合計額(家賃、人件費、固定広告費、システム利用料など)を算出します。

最後に、月間の固定費合計額を、1客あたりの限界利益で割ります。この計算によって、月間で固定費をすべて回収し、赤字を抜けるために必要な最低ご来店人数が算出されます。

こうして出た月間の必要客数を、サロンの月間営業日数で割ることで、1日あたりに必要な施術人数が分かります。

たとえば、1日あたりに必要な人数が明確になれば、日々の予約状況を見たときに「今日の予約件数で固定費のカバーが完了した」「今月の営業日数から考えると、赤字を回避するためにはあと何人のご予約が必要か」という目標が具体的になります。月単位の大まかな目標だけでなく、1日単位のクリアラインを持つことで、オーナー自身もスタッフも日々取るべきアクションが明確になります。

損益分岐点を下げて確実に利益を残すための現実的な見直しポイント

1日あたりの必要客数が判明した後は、損益分岐点そのものを引き下げ、より少ない客数でも確実に利益が出る体質を作ることが重要です。損益分岐点を下げるためのアプローチは、固定費を削るか、1客あたりの限界利益を上げるかのいずれかになります。

固定費の見直しにおいては、家賃や人件費などの基盤となるコストを無理に削るのではなく、費用対効果の低い固定広告費や、活用しきれていないシステム利用料などを整理することから始めるのが安全です。

一方、限界利益を上げて損益分岐点を引き下げるためには、新規集客だけに頼る経営からの脱却が必要です。新規客の獲得には高い広告費がかかるため、新規依存の経営は固定費や変動費を押し上げ、損益分岐点を高くしてしまう原因になります。

実際にUNELMAである月の新規客のその後を追うと、2回目に来た割合は14〜36%で、67〜79%が失客していたというデータがあります。

新規のお客様を獲得しても、その多くが離反してしまう状態のままでは、常に高い集客コストを払い続けなければならず、1日あたりの必要施術人数も下がりにくくなります。損益分岐点を効率よく下げるためには、失客を防ぎ、過去にご来店いただいたことのあるお客様に再来店していただく仕組みを作ることが最も効果的です。

すでにお店を知っているお客様へのアプローチは、新規集客に比べてコストを抑えられるため、限界利益率を大幅に高めることができます。

実際にUNELMAの実例として、離反客476名へ配信して3日で再来が10.5名増え売上35,924円増(反応率2.20%。配信していない他店を差し引いた実測値)という結果が得られた事例もあります。

このように、無駄な固定費を抑えつつ、既存のお客様や離反されたお客様へ低コストでアプローチして再来店を促すことができれば、1日あたりに必要な赤字脱出ラインを大幅に下げることができます。自店舗の正確な損益分岐点を正しく把握し、日々の目標人数を明確にした上で、無理のない利益体質を作り上げていきましょう。

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